イギリスのエリザベス女王の死去により、イギリス国内や、オーストラリアやカナダなどに代表されるイギリス連邦王国の間で、君主制を廃止し共和制に転換しようとする動きが現れ、世界から注目を集めています。
…何だか少々難しそうな話題ですね。
イギリスの王による君主制が撤廃されるかも、というのも大変に大きなニュースですが、何よりも筆者の周りで話題になったのは、「え、カナダって王国だったの…!?」という部分。
カナダが王国であるということを認識したことが無く、話題になって初めて知り驚いた人も多いのではないでしょうか。
と言うことで、今回は「カナダもオーストラリアも王国ってどういうこと?」という疑問にこたえるべく、話題の「イギリス連邦王国」について分かりやすく解説します。
<もくじ>
・カナダ王国の国王はイギリス国王?イギリス連邦王国とは?
・カナダがイギリス連邦王国となるまで
・カナダとイギリス連邦王国の今後は?
カナダ王国の国王はイギリス国王?イギリス連邦王国とは?
カナダが実は王国だったと知り驚いた人の多くは、こう思ったのではないでしょうか?
「カナダに王様なんていないのに何で!?国のトップは首相でしょ??」
こちらはある意味正しい認識です。現在カナダの政治のトップに立っているのは、第29代首相のジャスティン・トルドー氏ですね。
しかし、完全に正しいわけではありません。王国と言うからには、カナダには王様がいるのです。それが現在新しくイギリスの君主として王位を継いだ、チャールズ3世です。
「カナダの王様がイギリスの王様と同一人物ってどういうこと???」と、さらに混乱する人も出て来るでしょう。スッキリ理解するには、イギリス連邦王国について知る必要があります。
イギリス連邦王国(英連邦王国:Commonwealth realm)とは、イギリスの君主(王)を自国の君主としてとして戴く、独立した主権国家を指します(ちなみにCommonwealthは国家や連邦、Realmは王国や国土を意味する単語)。現在2022年時点では、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを含む15か国が加盟しています。
つまりイギリス連邦王国の国々は、「それぞれ国として独立し、統治権を持っており、イギリスに支配されたり、政治に干渉されたりはしないが、同じ君主(この場合はイギリス国王)を、自分の国の君主として忠誠を誓うよ」という立場にいるということです。
イギリス新国王チャールズ3世は、実はイギリスの王であると同時に、オーストラリア国王であり、カナダ国王であり、ニュージーランド国王でもあるということですね。
国王は君主として君臨しているが、統治権は議会を通じて国民が行使するイギリスの政体のことを「君臨すれども統治せず」という言葉で表します。どこか聞き覚えがありますよね。
ちなみに、カナダ国王であるチャールズ3世の正式な称号は以下の通りです。
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英語:Charles the Third, by the Grace of God, of the United Kingdom, Canada and His other Realms and Territories King, Head of the Commonwealth, Defender of the Faith
フランス語: Charles Trois, par la grâce de Dieu Roi du Royaume-Uni, du Canada et de ses autres royaumes et territoires, Chef du Commonwealth, Défenseur de la Foi
日本語訳:神の恩寵による、連合王国、カナダならびに他のレルムや領域の国王、コモンウェルスの長、信仰の擁護者、チャールズ3世
カナダ国王
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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とっても長くて仰々しい名前ですよね!
カナダがイギリス連邦王国となるまで
先の章で、イギリスの国王が、同時にカナダの国王になると言うことはご理解いただけたでしょうか?それでは次は、どうしてそのような仕組みが出来たのか、カナダがイギリス連邦王国となった経緯について簡単に解説します。
元々最盛期のイギリス帝国は、全世界の陸地と人口の4分の1を治める、世界史上最大の帝国でした。世界の4分の1だなんて、ものすごい勢力ですよね。カナダも、1497年に新大陸として「発見」されて以降、同じくカナダに植民地を作っていたフランスとの争いの末、イギリス植民地として統治されます。
しかし、アメリカ独立戦争後、今度はアメリカがカナダを合併しようと何度も進出してくるように。強敵アメリカの脅威に対抗しようと、カナダの複数の植民地の代表が集まって自治連合形成の交渉を始めます。植民地の独立戦争勃発を恐れたイギリス議会はそれまでいくつかに分けて統治していた植民地を統合し、「自治領カナダ政府」を成立。カナダは一方的に支配される植民地から、自治権を持つイギリス自治領(ドミニオン:Dominion)となったのです。これを皮切りに、オーストラリアやニュージーランド、南アフリカ、アイルランドなども次々と自治領となっていきました。
さらに第一次世界大戦後、これらの自治領で独立への動きが大きくなり、1926年、イギリスと各自治領は、「君主への共通の忠誠によって結ばれた」対等な立場であることに合意しました。その時点ではまだ自治領(ドミニオン)と呼ばれていた名称も、1949年以降は使用されなくなり、新たに「イギリス連邦王国(Commonwealth realm)」と呼ばれるようになったのです。
これが、今のイギリス連邦王国の誕生の大まかな流れです。多くの国々が植民地から今の独自国家になるまでの過程で、カナダが大きな役割を果たしたことが分かりますね。
カナダとイギリス連邦王国の今後は?
ここまでは、イギリス連邦王国についての概要と、その成り立ちについて簡単に解説しました。
それでは、今後もカナダとイギリスの関係性は変わらず続いていくのでしょうか?
実はこれまでも、アイルランド、インド、マルタ、フィジーなど、多くの国がイギリス連邦王国から離脱しています。一番最近では、昨年2021年にバルバドスが離脱をしたばかりです。
今回、エリザベス女王の死去後数日のうちに、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどのリーダーは、女王の後継者であるチャールズ3世を正式な君主とし、忠誠を誓う声明を発表しました。少なくとも、現時点では君主が変わっても同じ立場を守り、直ぐに連邦王国を離脱する意思はないと言うことが分かります。
しかし一方で、同じイギリス連邦王国の一つであるアンティグア・バーブーダは、イギリス君主を引き続き自国の君主とするかどうかについて、国民投票を行うと方針を明らかにしました。
その他にも、70年続いた女王の統治が終ったことをきっかけに、大きく動き出す国が引き続き出てくる可能性は充分あります。多くの国々でそういった動きが高まれば、カナダやオーストラリアにも影響が出てくる可能性は否定できないでしょう。
今後も、イギリスやカナダ、その他のイギリス連邦王国の国々から目が離せませんね。
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