オーストラリアと言えば、どこまでも広がる雄大な大地と、そこで営まれるファームでのお仕事が人気ですよね。
ワーホリ渡航者のお仕事先としては、野菜や果物を栽培する菜園や果樹園が有名ですが、オーストラリアではウールを得るために羊を飼うシープファーミングも良く知られています。観光地やその周辺では、羊の毛刈りショーや毛刈り体験が楽しめるところも!
ただ、観光用にショーとして行われる羊の毛刈りは、実際のファームでの毛刈り現場と少し様子が違うかも!?
今回は、オーストラリアの片田舎でファームステイをしていた筆者が、1週間リアルな羊の毛刈り現場に入り込んで見たお仕事の様子をご紹介します!
<もくじ>
・観光地で楽しむ羊の毛刈りショー!
・ショーとは違う!?リアルな羊の毛刈り現場とは
・羊の毛刈り職人だけじゃない!その周りで働く人々
・羊の毛刈りの1日のスケジュール
・羊の毛刈りのこれから
・観光地で楽しむ羊の毛刈りショー!
筆者が初めて羊の毛刈りを見たのは、オーストラリアの観光地で行われた毛刈りショーでの事でした。毛刈りショーでは、まずタンクトップにカウボーイハットを被ったガタイの良いおじさんが、オーストラリアのシープファーミングの歴史なんかをオーストラリアンジョーク交じりで解説。
その後、別のスタッフによってステージに連れてこられた羊をひょいっとひっくり返し、時々マイクで解説をしながらススス~っといかにも簡単そうに毛刈りを行い、最後の部分は観光客にも毛刈り体験をさせてくれました。
少しだけ毛刈り体験をした観光客から「難しい~!」と声が上がると、再びおじさんの手にバリカンが戻り、最後の仕上げで細かい足の部分や耳の横のあたりをチョイチョイっと整えて、毛刈りショーは終了!モコモコの毛皮が無くなってふた回りほど小さくなった羊さんと共におじさんは退場していきました。
ショーの間はカントリー調のBGMが掛かっており、お客さんの笑い声や歓声が響いてとても明るい雰囲気。羊は可愛いし、羊毛はふわふわで柔らかそうだし、羊の毛刈りってなんだか楽しそうなお仕事だなあというポップな印象を残して会場から出た記憶があります。
・ショーとは違う!?リアルな羊の毛刈り現場とは
その数か月後に、一時期ホームステイをさせてもらっていたファーマーのご家族の所で羊の毛刈りの作業をするから、1週間ほど手伝いに来ないか?とお声をかけてもらい、筆者は喜んで飛んでいきました。
実際に羊の毛刈りを行う、毛刈り専用の小屋(sharing shed)は高床式のようになっており、床下は毛刈りが終ったあとの羊を入れる為に、柵で囲ったスペースになっています。小屋は後ろ半分がこれから毛刈りを行う羊を待機させておく空間、前半分が作業エリアです。
作業エリアには毛刈りを行う人それぞれにブースのようなものがあり、各ブースには、天井からぶら下がるバリカン、羊が待機しているバックスペースに入る入口、毛刈りが終った羊を床下に移動させる滑り台の入り口がセットになっています。
がたいの良いおじさん達が軽々と扱っているバリカンは実際に手に持たせてもらうとズシっと重く、スイッチが入って動き出すと振動で手がぶるぶる震えてしまって、ただ真っすぐに固定して動かすだけで至難の業でした。やってみるかい?と聞かれましたが、筆者は羊に怪我をさせてしまいそうで怖くて、ほとんど羊毛にバリカンを当てることも出来ませんでした。
ショーとは異なり、実際の毛刈りの現場はまるで戦場のようでした!いくつものバリカンの騒音と、それに負けないように怒鳴るおじさんたちの大声、毛刈り以外の作業を行う女性たち、暴れる羊や逃げ出す羊、それを捕まえに走る人の足音や怒声、バリカンが当たって飛び散る羊の血……!!
男臭く熱い、年に一度の、どこか高揚するお祭りような、特別な1週間でした。
・羊の毛刈り職人だけじゃない!その周りで働く人々
羊の毛刈りの現場では、どんな人たちが働いているのでしょうか?
私がお手伝いをしたファームでは、4人のShearerと2人のThrower、3人のSkirterと、1人のSweeperが働いていました。それぞれの担当がどのような役割をこなしていたのか、簡単にご紹介しましょう!
【Shearer:毛刈り担当】
まずは一番の力仕事、現場の主役になるのが毛刈り職人の皆さんです。バックヤードから羊を連れてきてバリカンで毛を刈り、それが終ったら小屋の外に羊をすべり下ろしていきます。怪我をしないように両足と左手でしっかりと羊を固定しつつ、右手で素早く毛刈りを行うには高い技術とアスリート並みの体力が必要!
皆さんプロなのでガッチリと、かつ羊の負担にならないように固定していらっしゃいますが、中には途中で暴れてバリカンの刃にあたり、怪我をしてしまったり、逃げ出したりする羊もゼロではありません。その場合はすぐに羊を捕まえたり、必要とあれば簡単に怪我を縫って応急手当てをしたりするのも彼らの仕事のうちです。
【Thrower:羊毛を投げ広げる担当】
毛刈り職人が刈り終わった羊毛は、お腹の真ん中部分を除いて一枚に繋がっています。それをキレイにまとめて持ち、専用の網の上にファサッと投げ広げる担当の人がいます。刈られた羊毛は繊細で、雑に持つと途中でちぎれてしまったり、投げ方が悪いと丸まって全体がしっかり広がらなかったりするので、投げるにも技術が必要です。
【Skirter:裾を切ってランク分けをする担当】
Throwerが投げ広げた羊毛の裾の部分は、足や腹側に当たるので、土などで汚れて固まり、固くなっています。商品に出来ないその汚れた部分を素早くキレイに取り除き、瞬時に羊毛の質をジャッジしてランク毎に振り分ける担当の人です。各ランクの羊毛が一定数溜まったら袋詰めにしてすぐに出荷できるように準備するのもSkirterのお仕事です。
【Sweeper:床掃除担当】
Throwerが羊毛をピックアップしたら、細かい羊毛を掃除し、一部だけ残されるお腹の部分の羊毛を、商品になりそうな箇所だけ分けて処理します。床に泥や血などの汚れが付いていたら、屑の羊毛で拭って綺麗にします。その他、ShearerやThrowerから細々した雑用を指示されて他の人の作業がスムーズに進むようサポート。筆者はこの仕事を担当させてもらいました!特別な技術は必要ありませんが、居ないと不便でそれなりに必要性の高いお仕事です。
その他、小屋の外で羊をバックヤードに追い込んで入れたり、毛刈りが終ったあとの羊にカバーを掛けていったり、小屋の外に出た羊たちを家畜小屋に戻したりするサポートの人も居ます。
Shearerは次々と羊の毛刈りを行い、ThrowerはShearerが刈り終わったらすぐに羊毛を回収し、SkirterはThrowerが次々に運んでくる羊毛を滞ることなく処理し、SweeperはShearerが次の羊に取り掛かる前に素早くフロアを整える。
荒々しい仕事場ではありますが、全ての役割の人たちがリズムよく、協力しながら働いている現場は連帯感があり、その一員として少しでも役に立てているという感覚はとても気分を高揚させます!
・羊の毛刈りの1日のスケジュール
私の滞在していたファームでの、一日のスケジュールをご紹介します。
家族は、5時ごろに起き出して身支度をし、5時半ごろから通常のファームの仕事(餌やりや家畜の世話など)を行います。その後軽く朝食を食べ、7時ごろから毛刈りを行う羊を移動させたり準備を整え、羊の毛刈り職人たちが7時半から毛刈りをスタートできるようにします。
毛刈りの仕事は7時半から始まり、9時半まで2時間働いたら30分のモーニングティータイム。10時から12時までの2時間働いたら、1時間のランチタイム。午後は1時から3時まで2時間働いて30分のアフタヌーンティータイム。最後にまた5時半まで2時間働いたら一日が終了です。
オーストラリアの空気は乾燥しているので、皆さんティータイムの時間は大きなマグカップで沢山水分を取ります。ランチの時間は、早々にサンドイッチの食事をとり終わると、毛刈り職人のおじ様たちはみんな小屋の床にそのままごろりと横になって昼寝をしていました。
一日が終ると皆さん体力が尽きてぐったりしてしまいます。家族揃って9時にはベッドに入り、体を休めていました。
体はへとへとになりますが、それでも一日の終わりに「今日も一日よく働いたな」という満足感と共に眠りにつき、朝目覚めて「今日も頼むよ!」と仕事仲間の一員として肩を叩かれると、「よし、頑張ろう!」と力がみなぎる、そんな充実した一週間でした。
・羊の毛刈りのこれから
紹介してきたように、羊の毛刈りは、かなりの体力と技術が必要な、大変なお仕事です。オーストラリアでは「世界で最もキツイお仕事」と言われている程…!その為新しい職人のなり手がなかなか見つからず、現場は人材不足に悩まされています。
将来、職人不足と技術の向上により、この毛刈りの作業も機械によって行われるようになるかもしれません。シドニー工科大学では、羊の毛刈りロボットを研究しているということですし、その未来は意外と近くにあるのかも…。オーストラリアの昔ならではの光景がだんだん少なくなっていくのは少し悲しいですが、時代の流れと共に移り変わっていくのは仕方が無いのかもしれません。
段々と秋が深まり、温かい防寒着を身につける機会が増えてきました。皆さんのそのセーターもコートも、もしかしたらオーストラリアのファームから届いた羊毛で出来ているのかも?
もし、昔ながらのファームでの、熱く活気ある仕事風景に興味がある方は、是非今のうちに体験してみて下さいね!